内部監査におけるサンプリング
内部監査において、サンプリングは以下のように定義されます。
サンプリングは、内部監査人が母集団に関して結論を形成する、または結論の形成の一助とするために選択した項目のある特徴について監査証拠を評価することを可能にする。母集団の100%未満に対する監査手続きを適用することである。
監査人はすべてを適用するのではなく、サンプルを抽出し、そのサンプルに対して監査手続きを実施し、その結果から全体に対する評価を行う。
内部監査人は、サンプリングが最も効率的かつ有効な手段であるかを評価しなければならない。なぜならば、情報技術が発達した今日ではITを用いることで全母集団の評価が可能である場合がある為である。
属性サンプリング
属性サンプリングとは、監査対象部門の内部統制が有効に機能しているかを判断する為に監査手続きを実施する際に利用される。サンプル結果を評価する際、監査人は母集団の属性からの逸脱率(内部統制が有効に機能していない比率)が、監査人が許容する逸脱率を上回っているかに関心を持つ。
監査対象部門において、請求書が有効な出荷指示書によって裏付けられていることを立証するためにサンプリングを実施する。
仮に、許容できるサンプリング・リスク、許容逸脱率、予想逸脱率を以下の値とする。
- 許容できるサンプリング・リスク・・・5%
- 許容逸脱率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6%
- 予想逸脱率・・・・・・・・・・・・・・・・・2.5%
サンプリングの目的及び母集団の確定
設例のサンプリング目的は、実在性に関わる内部統制が有効に機能しているかを評価することであり、監査期間中に作成されたすべての請求書が母集団となる。
サンプルサイズの確定
サンプルサイズとは、監査人が検証するサンプルの数である。属性サンプリングでは、許容できるサンプリング・リスク、許容逸脱率、予想逸脱率、母集団という4項目を数値化し、サンプリング テーブルを使ってサンプルサイズを確定する。
設例の場合、サンプルサイズは150の請求書とする。
サンプルの抽出
抽出したサンプルがより母集団を代表するよう、作成時期、金額、請求書作成者、顧客等に偏りが請求書をサンプルとして含むことが望ましい。
サンプルの判定
設例の場合、サンプルサイズ150の内、8つの逸脱が発見された。
逸脱率(発見された逸脱数/サンプルサイズ)=8/150=5.3%
設例の場合、許容逸脱率が6%で、サンプル逸脱率が5.3%であるのだからアサーションに対する統制は理論上は有効に機能しているようにも見える。しかし、実際はサンプリング・リスクを回避するために、サンプリングテーブルを使ってサンプル逸脱率をより慎重な数値へと調整を加える。その結果算出される数値が逸脱率の上限である。
設例では9.5%と計算される。(算出方法は省略)
サンプルの結果の評価
設例の場合、逸脱率の上限が9.5%で許容逸脱率が6%である為に、統制のリスクは予想よりも高いことが判明し、統制の有効性が立証されなかったという結果になる。
変数サンプリング
PPSサンプリングは、監査対象部門の勘定残高又は取引の種類の公正さを判断する為に監査手続きを自実施する段階で利用される。結果を評価する際、監査人は勘定残高又は取引の種類における虚偽の金額の表示が、監査人が許容する虚偽の表示の金額を上回っているかに関心を持つ。
PPSサンプリングの母集団は、対象となる勘定残高や取引の金額すなわち個々の勘定残高の取引の金額1ドルがサンプル単位となる。ランダムなスタートで、ある金額ごとにサンプルを抽出していくため、抽出された1ドルを含む勘定残高や取引の金額がサンプルとして抽出されることになる。
ー設例ー
監査対象部門では売掛金が300,000ドル計上されており、その売掛金は1,500の顧客口座により構成されている。監査人は監査対象部門の売掛金の実在性を立証する上でサンプリング実施する。
仮に、許容できるサンプリングリスク、許容虚偽表示、予想虚偽表示を以下とする。
- 許容できるサンプリングリスク・・・10%
- 許容虚偽表示金額・・・・・・・10,000ドル
- 予想虚偽表示金・・・・・・・・・・・4,000ドル
サンプリングの目的及び母集団の確定
設例のサンプリングの目的は、売掛金の実在性または発生に関る証拠の収集であり、母集団は、売掛金勘定残高の合計300,000ドルである。
サンプルサイズの確定
サンプルサイズとは、監査人が検証するサンプルの数である。PPSサンプリングでは、許容できるサンプリング・リスク、許容虚偽表示、予想虚偽表示、母集団という4項目を数値化してサンプルサイズを計算する。
設例の場合、サンプルサイズは174の顧客勘定とする。(算出については省略)
サンプルの抽出
サンプルの抽出には通常、系軸サンプリング法を用いる。PPSサンプリングの抽出の為に監査人は、母集団をサンプルサイズで割りサンプリング抽出間隔を求める
サンプルの抽出間隔(母集団/サンプルサイズ)=300,000ドル/174=1,724ドルとなる。
次に顧客の売掛金残高をランダムに並べ採番し、ランダムに選んだ金額(300ドル)でスタートし、サンプル間隔が1,724だった場合、1番から300ドルに到達した口座をサンプルとして抽出し、次は1,724ドルを加えた金額のチタンを含む胃口座がサンプルとして抽出される。
サンプルの判定
抽出されたサンプルに対して、確認状を送付した所、3つの口座で虚偽の表示が発見された場合、サンプル中の差異は2,125ドルだった。サンプルの判定に基づき、サンプリングリスクを回避するために、発見された虚偽表示金額(2,125ドル)をより慎重な数値へと調整を加える。その結果算出される数値の虚偽表示金額の上限である。
設例では、6,695.48ドルと計算される。(算出は省略)
サンプルの結果の評価
虚偽表示金額の上限(6,695.48ドル)が、許容する虚偽表示金額(10,000ドル)を下回っている為、母集団は許容額を超える虚偽表示金額は含まないということを裏付けたことになり、勘定残高は公正に記録されていると結論付けられる。
サンプリングサイズの確定
サンプルサイズとは、監査人が検証するサンプルの数である。
属性サンプリングでは、許容できるサンプリング・リスク、許容逸脱率、予想逸脱率、母集団という4項目を数値化し、サンプリングデータを使ってサンプルサイズを確定する。
変数サンプリングでは、許容できるサンプリング・リスク、許容虚偽表記、予想虚偽表示、母集団という4項目を数値化してサンプルサイズを計算する。
サンプリングリスク
サンプリングリスクとは、サンプルを検証した場合の結論と、母集団すべてを検証した場合の結論とが異なるかもしれない、というリスクである。言い換えれば抽出したサンプルが、母集団全体の特徴を反映していない可能性を指していることである。
過誤棄却のリスク
監査におけるサンプリングリスクには2種類がある。1種類は過誤棄却のリスクである。
属性サンプリングにおける過誤棄却のリスクとは、サンプルに基づいた統制リスクの評価レベルを、実際に内部統制の有効性よりも高く評価してしまうというリスクである監査人が統制リスクを高く評価しすぎた場合、更なる監査手続きを必要以上に実施する為、監査の効率は下がる。
変数サンプリングにおける過誤棄却のリスクとは、実際には記録された勘定残高には重要な虚偽の表示が含まれていないにも関わらず、重要な虚偽の表示が含まれていると結論付けた場合、追加的手続が実施される為、通常は正しい結論へと導かれる。ただし、監査の効率は下がる。
過誤採択のリスク
監査におけるサンプリングリスクのもう一つは、過誤採択のリスクである。
属性サンプリングにおける過誤採択のリスクとは、サンプルに基づいた統制リスクの評価レベルを、実際の内部統制の有効性よりも低く評価してしまうというリスクである。監査人が統制リスクを低く評価しすぎた場合、更なる監査手続きは監査を有効とするのに必要なレベルまで実施されない。つまり、監査の有効性に影響を与える。
変数サンプリングにおける過誤採択のリスクとは、実際には記録された勘定残高には重要な虚偽の表示が含まれているにもかかわらず、重要な虚偽の表示は含まれていないという結論をサンプルが支持してしまうリスクである。勘定残高に重要な虚偽の表示が含まれていないと結論付けた場合、追加的手続は実施されない為、財務諸表には虚偽の表示が含まれることがある。つまり、監査の有効性に影響を与える。
特殊な属性サンプリング
連続サンプリング
連続サンプリング(ストップ・アンド・ゴー・サンプリング)は予想逸脱率が許容逸脱率よりも相対的に低い場合に利用される。一般的に監査人が逸脱が少なく信頼性のある母集団に対し、出来るだけ楽にサンプリングを実施したい時に適用される。
仮に母集団20,000に対して5%未満の逸脱率であれば、十分な補償が得られると考えられる。
- 50のサンプルに対して、逸脱が発見されなかった場合、母集団が含む逸脱率が5%未満である確率は92.31%であると読む。この結果に満足であった場合、これ以上の連続サンプリングを実施しない。
- 50のサンプルに対して、一つの逸脱が発見された場合、母集団が含む逸脱率が5%未満である確率は72.06%であると読む。この結果に満足できない場合は、100までサンプル数を増加して統制のテストを実施する。100のサンプルに対して、追加の逸脱が発見されなかった場合、母集団が含む逸脱率は5%未満である確率は96.29%であると読む。Jこの結果に満足であった場合、これ以上のサンプリングを実施しない。
サンプル結果が結論を出せるような証拠を提供しない場合は、サンプルサイズを増やしながら繰り返し検証を行う。このように、連続サンプリングでは、伝統的な属性サンプリングよりも少ないサンプルサイズでより効率的にサンプリングが実施できる。
発見サンプリング
発見サンプリングは、予想逸脱率は低いが、逸脱があると極めて深刻な場合に利用され、少なくとも1つの逸脱を発見するようにサンプル数を決定する方法である。監査人は母集団全体に対して意見を表明するのではなく、特徴を持ったサンプルを少なくとも一つ発見することを目指す。
発見サンプリングは、二重支払、不正出荷、架空の従業員に対する給与支払い等を発見する際に利用される。すなわち、発見サンプリングは不正の存在を疑っているときに使われる。
上記発見サンプリング表では、10,000の母集団の中に50逸脱があると推定される場合、600のサンプル数をテストする。その中に少なくとも1つの逸脱が発見される可能性gは95.5%あると読む。
古典的変数サンプリング
古典的変数サンプリングでは、サンプルを利用して母集団の見積もりを得る際に利用される。古典的変数サンプリングには、平均推定見積法、誤差見積法、比例見積もり法の3つの手法がある。
古典的変数サンプリングの3つの手法を下記の具体例を使って解説する。
ー設問ー
10,000口座から構成される母集団を想定し、記録金額の合計を1,000,000ドルとする。従って、平均簿価は100ドルとなる。抽出されたサンプル中の平均記録金額を101ドル、サンプル中の平均監査金額を98土塁とする。
(1)平均推定見積法
平均推定見積法では、サンプル中の平均監査金額に母集団の数をかけることによって監査金額を推定する。
見積監査金額(母集団*平均監査金額)=10,000*98ドル=980,000ドル
(2)誤差見積法
誤差見積法では、サンプル中の平均監査金額と平均記録金額の誤差から、母集団全体の監査金額を推定する。
サンプル中の平均誤差(平均記録金額-平均監査金額)=101-98=3ドル
母集団に推定される誤差=10,000*3ドル=30,000ドル
見積監査金額=1,000,000ドル-30,000ドル=970,000ドル
(3)比例見積法
比例見積法では、サンプル中の平均監査金額と平均記録金額の比率で母集団全体の監査金額うぃお推定する。
見積監査金額(サンプル中の平均監査金額/サンプル中の平均記録金額)*母集団の記録金額
=(98ドル/101ドル)*1,000,000ドル
=970,297ドル
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